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『夜明け前』
  島崎藤村著 新潮社文庫
 いわゆる大作の歴史小説としては初めてトライした作品である。幕末から明治新政府が樹立され、時代の行く末、方向性が定まった時期までを中山道の宿場町・馬籠を舞台として描いた作品である。「木曽路はすべて山の中である・・・。」の出だしで始まるこの物語は、庄屋の仕事をこなしながら、国学平田派の門人であった青山半蔵が主人公である。
 山間の村とはいえ、当時の主要交通路の宿場町であった馬籠に起こる出来事は、日本が大きく変わろうとする時代背景と無縁ではなかった。ましてや国学の門人である半蔵には大きな時代の変化に期待するものがあった・・・。
 歴史を学校で学ぶとき、国単位の出来事、登場人物しか扱わない。全体の大きな流れを知識として知ることはできても、人々の暮らしにどう関わったのかは、授業の外にある。国家の行く末を案じるなければならないような、そうしたポジションに自分の身を置くことはないと思っていたので、必然的に歴史上の出来事を流れとしてつかむのではなく、単なる知識としてとらえていた。
 この作品を読んだことで、国家の大きな動きが市井の暮らしに無関係でないことを知った。俄然、単なる知識としての歴史であったものが、興味の対象として面白く見れるようになった。例えば、尊皇攘夷のうち尊皇の結果として倒幕は達成され、攘夷は結局捨て去られた。。尊皇攘夷と富国強兵は歴史用語として単独・分離して覚えていたが、倒幕をなした集団の一連の起点と終点の標語でもある。何故、攘夷は捨て去られたのか、そんなことを疑問に感じ出すと、歴史を知ることが面白くなる。
 小説で読む歴史は、面白いものだ。また、面白い小説は、歴史を学ぶことを面白くさせてくれる。
| 異次元への旅 | 20:36 | comments(0) | trackbacks(0) |
『炎立つ』
  高橋克彦著 講談社文庫

 著者の作品では、「写楽殺人事件」を読んだことがある。このときは、SFの書き手の延長線上にある作品と感じた。
 この『炎立つ』は、たまに時代小説も読んでみたくなり、NHK大河ドラマの原作であることは知っていたので手にしたものだが、読み始めてすぐに、異次元にの世界に入り込んでしまった。SF的要素はなかった。全5巻、あっという間に読み終えた。「臥牛蝦夷」と自らを名乗るようになったのも、この作品に触れたことがきっかけとなっている。

 物語は、今の東北地方、陸奥の豪族、安倍頼良(よりよし)の館で、息子貞任(さだとう)の婚儀がおこなわれているところから始まり、奥州藤原氏の祖、清衡がその地位を築くまでを、当時、朝廷側から蝦夷(えみし)と悔られ、日本史では「まつろわぬもの」=「反乱者」として扱われてきた人々の側から描いている。歴史上の出来事としては、前9年の役や後3年の役を扱っている。
 今の時代、地方に住んでいると、どうしても東京中心の中央集権的な部分というのが日々の生活で目に付いてしまうことや、他者の言うことに素直に従いたくないという、へそ曲がりな性格もあって、中央への対抗という視点は常に自分の中にある。こうした自分の思いがあるので、この物語に登場する人々(安倍頼良・貞任父子、藤原経清・清衡父子など)が、自らの地を中央に隷属することなく慈しんでゆきたいと願い、独立性の確保を求める姿には、深く感情移入してしまった。
 歴史は、単なる連合体としての蝦夷(当時の奥州人達は、自らを何と称したかは分からない。)が、中央集権という国家体制ができあがっている朝廷側の圧倒的数の力の前に屈し、この物語の結末で奥州の雄となった藤原氏も、独立性を維持できなかったことを伝えている。
 敗者側の歴史であるだけに、文献も少ないと思われるが、著者の、東北人としての誇りを語りたいという思いが、ひしひしと伝わり、全5巻を興奮しながら読み終えた。地元びいきもあるのだろうが、凄い本である。

| 異次元への旅 | 10:59 | comments(0) | trackbacks(0) |
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